岩田
今って、もう、あれなんですか、野宿より主力は「お店のようなもの」になってるんですか。
かとうちあき(以下、かとう)
主力?
岩田
(笑)
かとう
(笑)
…いや、野宿が基本。趣味は野宿なんですけど。
ちょっと店をやり始めてから、やることが多くなって野宿の回数が減り、反省しているところですけど。
かとうさんが経営する「お店のようなもの」
別名「野宿界のアップルストア」
岩田
ふと思ったんですけど、かとうさんって、世界で初めて野宿で名前を知られた人かもしれない。
かとう
ああー。
野宿って、世界のどこかにそういう人はいるかもしれないですけど、日本ではね。
岩田
野宿野郎は他にもたくさんいるじゃないですか。
おそらくかとうさん以上の野宿野郎だっていっぱいいる。
かとう
はい。
岩田
だけど、野宿で有名になった人はかとうさんだけ。
かとう
野宿ってあんまり言う人がいないですよね。
岩田
いない。
かとう
そう。だからわたし、ミニコミを作り始めたのも、トイレ野宿にすごい感動して。で、それを書きたかったんですけど、「野宿」っていう言葉を使っている雑誌すら、あんまりなかった。
アウトドア雑誌でも野宿っていう感じでは…
岩田
野営とか、キャンプとか言いますよね。
かとう
うんうん。
で、そんな中でトイレ野宿のことなんて絶対書けないと思って。これは自分で作るしかないと(笑)。
岩田
トイレ野宿、「野宿入門」で書かれてるの読ませていただきましたけど、あれは、きれいなトイレだったんですか?
かとうさんの著書「野宿入門」
かとう
うーん。まあ、たぶんきれいなんでしょうね、そこそこは。
岩田
実は僕、ついこのあいだ消極的野宿(※1)をしたんですけど、
※1:消極的野宿 … お金がない、終電を逃したなどやむを得なくすることになった野宿のこと。反対に、自ら企画し楽しむ野宿を積極的野宿という。
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かとう
あっ、ほんとですか。
岩田
つい4日くらい前にそうなっちゃったんですけど、
かとう
終電逃して?
岩田
終電逃して、二日酔いで動けなくなって。
入谷のいちばんど真ん中の交差点で気持ちよく寝てしまいまして。
かとう
入谷の交差点のどこですか?
岩田
いちばんね、入谷で大きい交差点。地下鉄の駅の出口のところ。
かとう
へえ。
岩田
いや、友だちの家に泊まらせてもらったんですけど、目覚めたら、なんでか知らないけど、「いかん、もう出なきゃ」って思って、酔って頭おかしいまま出たけど、動けなくなって、そのまま…
かとう
(笑)
岩田
しかし、「あんなとこでもオレって人間は気持ちよく寝るもんだな」と。自己発見したころがあって。「あっ、オレ、けっこういけるな」と(笑)。
でもトイレはなあ…、トイレはまだオレ、ダメだなあ。
かとう
きれいなトイレはめちゃくちゃきれいなんで、
岩田
そういうトイレだといいでしょうね。
かとう
きれいなところから始めたらいいんじゃないですかね。
それから徐々に、まあ汚くても。マット敷いてるし、みたいな。
岩田
(笑)
かとう
そうやって慣れていくとか、いいかもしれないですね。
岩田
かとうさんの言う野宿って、キャンプとは違うじゃないですか。
かとう
はい。そうですよね。
岩田
キャンプの雑誌は多いし、キャンプの話は、なんだろ、オシャレにもなり得るし、
かとう
そうなんですよね。
野宿だとどうもオシャレにならないんですよね。
岩田
世田谷の人たちも、キャンプの話ならちょっとね、読んでくれそうですけど、
かとう
そこにね、難しさがありますよね。
岩田
ありますね。
かとう
なんでですかね。
岩田
うーん。難しい話になっちゃいますね。
かとう
でもまあ、それが面白さなんだろうなと思うんですけどね。
岩田
でも、本当はキャンプと野宿ってクロスするはずなんですけどね。
僕、最近キャンプを始めたんですけど、基本的に僕の中では野宿みたいな心構えで。
かとう
キャンプでどんなことを?
岩田
いや、普通にテント張って、そのへんの木の枝拾ってきて、
かとう
焚火して、
岩田
はい。炭とかは買うんだけど。
つまり、あの火をつける感じ。あの子どものとき味わったような嬉しさが、
かとう
ああ。
岩田
わきあがってきて。
ああいう興奮って、野宿の感覚にも通じるだろうなと思って。
でもキャンプの何がイヤって、
かとう
はい。
岩田
なぜかフリーでやらせてくれないじゃないですか。
かとう
「ここに張れ」とか。
岩田
「ここに張れ」とか、「一晩6,000円です」とか。
かとう
そうなんですよ。
岩田
「これ、なんだ? ぜんぜん自由じゃないぞ」とか思うじゃないですか。
かとう
ええ、ええ。
岩田
このお日様の下と誰も所有できない大地に、ただ僕はそこにいたいだけなのに(笑)。なんで?
かとう
そうですよね(笑)。
岩田
最初、キャンプ始めるときにいちばん抵抗あったのは僕、そこだったんですよ。
かとう
あっ、素敵。
岩田
だから、カミさんが「キャンプやりたい!」って言って、「オレもやりたい!」って言って、で、「どこ行こうか?」って話になって、「キャンプ場」ってカミさんが言うから、「あれ?」って思って。
「お金払って行くの?」って。「…いや、ホテルじゃないのに金払うって、それはないでしょ。浜辺行ってそこで…」
かとう
そうですよ。
岩田
「そこでてきとうにテント張ればいいんじゃねえ?」って言ったんですけど、「あんた、それ無理」って。
調べたらやっぱりカミさんの言う通りで、無理っぽいんですよ。各自治体の規制とかで。
かとう
そうですね。厳密にみていくと。
岩田
なんだこの世界は? 野営にさえ自由がないのかと。
かとう
ええ、すごい。やる前からそこに引っかかる人って。
岩田
えっ、みんな引っかからないですか?
びっくりしましたよ。でも大切なのはそこですよね。
かとう
きっと野宿が面白いと思っているところはそこだと思うんですけど、