いしまるあきこさんは、一級建築士です。なのに、建てたがらない。なんで建てたがらないのか? 建築をとりまく日本の現状を知れば、理由がわかります。

1950年代は2%以下だった空き家率は年々増え続け、2013年現在、13.5%にまで膨らんでいます。富士通総研による今年の発表では、もし今のペースで家を建て続ければ、2033年には空き家率は最大で28.5%にまで増えると試算されています。
つまり、3軒に1軒が空き家。これは日本がゴーストタウン化するということです。
それでも建築・住宅産業関係者たちは、建てつづけることをやめない。なぜなら、それで飯を食べているから…。

これはやっぱり、おかしくないでしょうか? 今すでにある建築をどう使っていくかという考えにシフトしていかないと、まずくないでしょうか?
そんな意識も抱えながら、いしまるさんとお話してきました。
岩田 和憲
いしまるあきこさんのプロフィール

建てたがらない建築士。
いしまるあきこ一級建築士事務所主宰。
1978年生まれ。
建築への興味を持ってもらうために、多種多彩な建築的きっかけづくりをしている。
主な活動に、既存の家や店舗を活用し、自身でデザインし自身でつくるセルフリノベーション、「Re1920記憶」(関東大震災の復興住宅・同潤会アパートメント、1920年代、リノベーションの3つをテーマにした展示イベント)の主宰、女性でもできるセルフリノベーション活動「リノベ女子」代表、建築関連雑誌や書籍の編集・ライター、アーティストマネージメント、ラジオやテレビ番組の制作など。
建物を必要以上に壊して作るのではなく、既存の建物の良さを見い出し手をかけ有効活用する、そんな人と建築との関わり方を提案している。
(…湯島天神のお祭りが開かれるなか、空き家のNさん家にて)

岩田
すごいエネルギッシュな方なんだろうなと思って来たんですけど、

いしまるあきこ(以下、いしまる)
(笑)

岩田
いや、エネルギッシュだとは思うんですけど、想像以上にほわんとしてて、ちょっとびっくりです。
いしまる
よく、ゆるいと言われます。
もともとの性格としゃべり方がそう感じさせると思うのですけど、多少は意識はしてまして。

岩田
キャラを?

いしまる
キャラを。建築士とかいうと、堅いイメージじゃないですか。
あと、わたしの漢字の名前「石丸彰子」はものすごく怖く見えるので。

岩田
そうですか?

いしまる
はい。
名前がすごく怖い印象を与えるなと前から思っているので、ひらがなの「いしまるあきこ」を使ってるんです。

岩田
僕の名前なんて平和憲法ですよ。

いしまる
平和憲法?

岩田
和憲。めちゃくちゃ堅い。

いしまる
ああー、そうかもしれないですね。

岩田
画数診断では人運、外運、地運、天運、総運すべて満点なんですけど。
それだけで親父が決めた。

いしまる
へー。 私の名前の漢字も親が画数を考えてつけていて…

岩田
彰という字ですよね。
いしまる
はい。表彰状の彰の字。彰子(あきこ)なんですけど。
ただ、そうとう堅い印象を与えるので、ひらがなを使うようになりました。
あと、むかし、勤め先ではとうぜん漢字の名前を使うので、それと個人の活動をわける意味でも、漢字とひらがなっていう使い分けをし始めたのがそもそもです。

岩田
個人でやろうっていうのは、もう就職する前から決めてたんですか?

いしまる
うーん。そんなことは考えなかったですけども。
ただ、どこかに所属するよりは一人でやったほうが向いてるなというのはだんだん思うようになりました。

岩田
決めてたわけではないんですね。

いしまる
はい。フリーでやろうというすごく強い意志をもっていたわけではなかったです。就職をしていますし。

岩田
「30歳になるまでにわたしは死ぬんだと思って、30歳までにぜんぶやろうというつもりで生きてきました」って、何かのインタビューで仰ってたじゃないですか。

いしまる
はい。そうなんです。思い込んでしまいまして。

岩田
今、30過ぎて…

いしまる
そうなんです、だいぶ過ぎちゃったんで。少しだけ、ゆるく生きるようになりました(笑)。
岩田
主張しなくなったということですか?

いしまる
いや、時間的なことです。前はもう睡眠時間削っていろいろやってました。
小学生のときに、手相を自分で見て、生命線が短いと思っちゃったんです。で、「あっ、これは30歳ぐらいで死ぬな」と思いこんじゃったんですよ、10歳ぐらいのときに。

岩田
そういう理由だったんですか。

いしまる
はい。理由はそんなもんなんですけど。
30歳ぐらいで死ぬんだったら、とりあえずやりたいことを我慢しないでやったほうがいいな、っていうふうに思っちゃったんですね。

岩田
見せていただけますか、手。

いしまる
今はもう、たいして短くないです。

岩田
ああ…。小さいころは短かったんですか?

いしまる
途中でちょっと切れがちな感じの。

岩田
うん。なんか2本ある。

いしまる
乱れがちな感じですけど。
そんなささいな理由ですけど、そう思い込んでしまいまして、それで、なんでも思ったことはやろう、やりたいと思ったらやろうと。
「またいつかできるし」と思う方がわりと多いじゃないですか。けど、わたしの場合30歳っていうリミットがかつてあったもんですから。なので、睡眠時間とか削って。

岩田
何時間くらい?
いしまる
4時間とかですけど。
日中、何かしら働いてるじゃないですか。で、仕事から帰ったあとに活動なり、何かをやるっていう。お金にならなそうなボランティア的なこととかを夜中にやってました。

岩田
リフォームとか、リノベーション活動とかですか?

いしまる
セルフリノベーションをやり始めたのはわりと最近です。
4時間睡眠とかでやってたのは、2007年の、音楽家の2人組のユニットの音楽ツアーの企画制作とか、建築の展示イベントです。

岩田
あのー、太鼓と箏の。

いしまる
それは太鼓のはせみきたさんと箏弾きのかりんさんのツアーですね。その前に歌を歌う玉井夕海さんと、お箏を弾きながら歌うかりんさんの2人組のユニットがありました。その全国ツアーを考えてほしい、一緒にやってほしいって玉井さんに言われて。
それで、その企画をしたり、開催地と連絡取り合ったり準備したり、いろんなことをやってたんですけど。

岩田
その話と建築ってどこかで結びついてるんですか?

いしまる
建築的に面白い会場を選んでいたりとか、ちょっと変わった場所でやるっていうことをしてるんですね。例えば民家、ビルの屋上、教会、美術館、お祭り、港、などなど。
そのことを伝える場合もありますし、そんなに言わないで、ただ会場がここですと言うだけのこともあるんですけど。
お客さんは知らないうちに面白い建築や空間に来てるっていう。不思議な体験の場や記憶をつくることをしてます。
© いしまるあきこ
玉井夕海さん(唄)かりんさん(25絃箏・唄)のプライベートライブ。
2007年、札幌のモエレ沼公園にて。
© いしまるあきこ
はせみきたさん(太鼓・唄)かりんさん(25絃箏・唄)の東北ツアー。
2012年、陸前高田・りくカフェにて。
岩田
どっから入ればいいのかな、なんか難しいな(笑)。

いしまる
そうなんですよね。わたしのやってることが非常に幅が広くて、すごい複雑に見えるようなので、ちょっと、まとめるの難しいかもしれないです。

岩田
うん。…しかも、僕、まとめないんですよ。

いしまる
ああ、そうなんですね。

岩田
そのまんま書き起こしてるだけなんです。

いしまる
仕事や活動の話なんですよね?

岩田
なんでもいいですよ。

いしまる
なんでもいい(笑)

岩田
取材させてくださいって申し込みながら、なんでもいいって、ひどい話ですけど(笑)。

いしまる
せっかくいらしていただいてるんで、そうですね、ここについてお話するとですね…

岩田
ああ、この場所のことですね?

いしまる
はい。「空き家開き」と言って、今年から始めているんですけど。
「空き家開き」というのは「空き家を開く」ことで、空き家を空き家ではなくすプロジェクトです。
このNさん家、すごい立派ですし、充分使えるんですけど、空き家なんですね。
岩田
いつの建物ですか?

いしまる
40年前ぐらいです。内装がわりときちんと手入れされてるので新しく見えるかもしれないですけど。

岩田
いや、もっと古いのかなと。外観がなんか蔵造りのような…

いしまる
少し変わった感じで。
蔵ではないんですけど、2階で会員制の料亭を一時されていたことがあるみたいで。なので玄関も料亭風な感じというか。
今のオーナーさんがわりと年配の方なんで、階段の昇り降りとかが大変になってきたんで、別の、わりと近いマンションに移られて。ただ、こちらの家が空いてしまうのももったいないので、何か使えないかなっていうことでご相談を受けたんです。
三浦展さんの「あなたの住まいの見つけ方」っていう本の、リノベーション女子インタビューでわたしのことを書いてくださって、それをこの家のオーナーさんが見て、
あなたの住まいの見つけ方(ちくまプリマー新書)

家を買おうにもとにかく高い。戦後日本の住宅をめぐる変遷史を紹介しながら、今、家というものをどう捉えるのか、どんな住み方があるのか、リノベーション、シェアハウスなど最新の事例を通して紹介している。
岩田
今、その本ありますよ。(鞄から本を取り出す…)

いしまる
あああー、ありがとうございます。
それで、出版社さん経由で連絡をくださって。
今の時代、“いしまるあきこ”でひらがなでネット検索してくださればいろいろな情報出てくるし、直接連絡もとれるのですけど、そういうのはされない世代の方です。
なので出版社経由でわざわざご連絡下さって。
ここを見に来たのが去年の7月なんですけど。
「空き家ではもったいないし、何かできませんかね」っていう話。
最初は「ここを改築とかしていろいろ使いやすくしたいなと思ってるんですけど、どう思いますか?」って言われて。
でも充分キレイですし、改築する必要性をわたしはぜんぜん感じなかったので「これで充分いいんじゃないですか」っていう話をして。
いろいろ話をしていくうちに、どうも必要としているのは改築とかではなくて、

岩田
維持?

いしまる
維持。
こういう空き家を使いたい方はいらっしゃるんで、最初はいろいろ、使いたい方を見つけてコーディネートする話をしてたんですけど、そうではなくて。
わたしとの関係性で、まずは、わたしがこの空き家を使って何かやるっていう話に落ち着いたんです。
で、まず1月に、アサダワタルさん(※1)を招いてトークイベントをやってみました。
※1:アサダワタルさん … 作家、音楽家、プロデューサー。自宅の一部を他者に開放する「住み開き」では、すでにあるものから新しいコミュニティ空間を作ることを提案。“日常編集家”として様々なアートプロジェクトを行っている。
岩田
これ、ただでお借りしてるんですよね?

いしまる
今のところはただですね。最初は、収入を得たらそこからいろいろ折半しましょうって言ってたんですけど、お金ではないということで。

岩田
改築の話で思い出したんですけど、加山雄三の若大将シリーズあるじゃないですか。

いしまる
はい。
岩田
あれ、加山雄三の設定が六本木のすき焼屋の倅で、1960年代の映画なんだけど、「親父たち、古いやり方はもういいんだよ」って若大将が言って、「こんな古い建物壊して鉄筋で建て直したほうが客が集まるよ」って言って。そしたら「若大将いいこと言うねえ」みたいな。周りがわーっと盛り上がって。

いしまる
ああー。

岩田
実際、そういうオチなんですよ。すき焼屋がモダンに建て替わって大繁盛するっていう。
で、だいたいそれと同じ時代に、「男はつらいよ」で寅さんが、「こんなキタねえだんご屋早く潰して、シャレた鉄筋建てにすればいいじゃねえか」って言うんです。でも、もう親族一同、「バカだねえ、おまえは」って呆れるシーンがあって。

いしまる
真逆ですね。

岩田
そう。同じ時代の同じ人気シリーズじゃないですか。でもまったく違う考え方が2つあるの。建築というか人の考えって、今もその2つにわかれるんじゃないかと思って。それがすごい面白いなあと思って。

いしまる
ここももちろん建て替えようと思えば立地も良いですし、いくらでも建て替えられると思うんですけど、オーナーさんもお年がお年なので、今べつにそれをやっても、あと何年生きれるのかとおっしゃる。

岩田
建て替えるとしたらその家賃収入でっていうイメージですよね。

いしまる
建て替えるとしたら普通はそうでしょうね。ただやっぱり愛着がある家だし、そこまでしなくていいかなっていうことだと思います。