
時は流れ、メゾンの歴史を理解し、
モダンに再解釈する
2019年4月2日 更新
2019年、ディオールは生まれ変わる。
11年間メンズ部門のクリエイティブディレクターを務めてきたクリス・ヴァン・アッシュが18年秋冬シーズンを最後に去ることとなった。
19年春夏シーズンからは、ルイヴィトンで幅広い層のファンを獲得することに成功し新たな時代の幕開けをサポートした御大、キム・ジョーンズがクリスにかわって座におさまることになった。
クリス・ヴァン・アッシュは常識にとらわれない感性と、仕事意欲に満ちたエネルギッシュな存在であり、交代劇の激しいウィメンズとは対照的な年数をメンズ部門で創作しつづけてきた。
もはやゼロ年代におけるディオールのDNAといっても過言ではない存在にまでなってたことを考えると、そんな彼がいなくなるというのは、否応なしにも大きな変化を避けられない事態になっているのではないだろうか。
勝手な心配までしてしまう、果たして次のディオールは大丈夫なのだろうかと。
それらを背景にみなさんと、ディオールの変革、クリスとキム ふたりの人物像や考え方を共有し、新たなスタートラインになったメゾンの変化に目を向けていければと思う。

クリスチャン・ディオール誕生
クリスチャン・ディオールは、1905年、フランス・ノルマンディー地方マンシュ県・グランヴィルで、肥料ビジネスで成功した裕福な実業家のもとに生まれた。
自然豊かな地方であったためか道や畑はほとんど整備されておらず、母親が雨風の自然環境や災害などから家を守るために、木や花を植えて植物豊かな家庭環境を築いた中で、のびのびと育てられた。そんな中で、幼いクリスチャンは花や虫など自然環境に夢中になり、植物のカタログを暗記したり、ガーデニングをする母のあとをついてまわるような牧歌的な幼少期を過ごしてきた。
クリスチャンにとって、グランヴィルのガーデンが彼の初のデザインの舞台となった。これらの実体験がもとで、花や昆虫、動物といったモチーフは現ディオールのデザインの中でも欠かせないアイデンティティの表現のひとつとして用いられるようになっていった。
学生時代は両親の希望で外交官になるべく勉学に励む一方で、アンドレ・ブルトン氏のシュルレアリスムに感化されて画廊を開いたこともあった。画廊はうまくいくことはなかったが、この画廊経営時代の繋がりで、彼はいよいよファッションの世界に入ることとなった。
ルシアン・ルロンの一デザイナーとして働きながら、クリスチャンには独り立ちする野心が芽生えはじめていた。同僚のピエール・バルマンがひと足先に独立し成功をおさめていたことも相まって、クリスチャンはルロン氏のもとを去ることを決意する。
そんな彼の独立にひと役買った木綿王マルセル・ブサックの援助で、クリスチャンは1946年についに自身の名を冠した「Christian Dior」を設立。服作りのテーマはもちろん「自然」や「動物」だった。
歴代デザイナー
ここで軽く、過去の歴代デザイナーを
振り返ってみることにしよう。
CHRISTIAN DIOR
クリスチャン・ディオール(1946-1957)
イヴ・サンローラン(1957-1960)
マルク・ボアン(1960-1989)
ジャンフランコ・フェレ(1989-1996)
ジョン・ガリアーノ(1996-2011)
ラフ・シモンズ(2012-2015)
マリア・グラツィア・キウリ(2016-)
DIOR HOMME
エディ・スリマン(2001-2007)
クリス・ヴァン・アッシュ(2007-2018)
キム・ジョーンズ(2018-)
そしてこの中から、2007年から2018年まで11年に渡りメンズラインのトップデザイナーとして功績を残した「クリス・ヴァン・アッシュ」と、2019年から新しくアーティスティックディレクターに就任した「キム・ジョーンズ」について取り上げようと思う。

2007年、直属のボスだったエディ・スリマンの後を継ぐかたちで、ディオールオムのクリエイティブ・ディレクターに就任。
クリス氏がまずディオールを理解するためにとったのは「ラグジュアリーブランドのメンズレーベルはどうあるべきかを考える」ことだったという。
ディオールという歴史あるビッグアトリエから大きなインスピレーションを得て、就任時からテーラリングに集中した。
そこで彼が目指したのは「テーラリングとファッションの融合」であった。
クリス氏はトレンドを創り出す一方で「伝統」も大切にし、これまでやってきたテーラーリングにさらに力を注ぎ、時代に負けない新しいテーラードのカタチを目指していった。
クリス氏は「ストリートウェア」と「伝統的なハイブランド」を合体させた洋服を作るということに重きを置きつつ、ムッシュ・ディオールが大切にしていた「花」や「虫」、「動物」のテーマを起用し続け、「BEE」シリーズなど人気のシリーズも独自の解釈において手掛けていき、あらたなファンを増やし続けていった。

ディオールを去る際、彼はこんな言葉を残した。 「ディオールとはソフトとハードの融合=コントラストである」 そして時代はキム・ジョーンズへと引き継がれた。

キム・ジョーンズ(2019年~)
ルイヴィトンでの成功で一躍世界のトップデザイナーになったキムは、新天地であるディオールでどんなサプライズを用意しているのか。
世界中の業界人やファッショニスタの大きな期待に、自身初のコレクションではオートクチュールで応えた。
2019 SPRING SUMMER
メゾンの歴史を象徴するアイコニックな格子柄「カナージュ」や「オブリーク柄」を積極的に取り入れたり、アーティスト・KAWS(カウズ)のキャラクターを大胆に取り入れることで、ポップフィールドとの融合にもチャレンジ。
クリスチャンディオールのアイコニックなモチーフに、華やかなピンクとホワイト、鮮やかなイエローとブルー、そしてシックなブラックをミックスしたエレガントかつ軽やかな色合いをテーマにファーストルックを手掛けて魅せた。
とある記者がジョーンズ氏に「これまでのようにストリートウェアも続けていくの?」と質問したところ、彼は「自分への挑戦をやめてはいけないし、一方でディオールの顧客が誰なのか、彼らはどんなふうに服を楽しんでいるのかということに目を向けなければいけない。
ブランドの作法をリスペクトしつつ、顧客が胸を踊らせて買いたくなるような、新しいものを提案できなければいけないんだ。僕は、自分がしていることに自信を持っているけど、それが正解かどうかは分からない。本能に従いながら、正しいと思うことにリスクを負いながら服作りをつづけていく。それが僕の使命だと思っている」と、こう応えた。
2019 PRE FALL
キム・ジョーンズは、クリスチャン・ディオールの人生のインスピレーションを追求している。
そこで2019年のプレフォールでは、ディオールメゾンが深く大切な関係を築いてきた「日本」にフォーカスしたデザインのショーケースとされた。
クリスチャン・ディオールのコレクションにみられる帯のように垂らされて結ばれたサッシュや、クロスして体を包み込むデザイン、着物のようなドレープ。
これらはいずれも日本の伝統衣装から着想を得て表現されている。
今回これらをディテイルも使いつつ、日本の「現状」を源にした、過去の歴史と創造的な未来を折衷し、ムッシュ ディオールが抱き続けた女性の神々しいフォルムをイメージした、近未来的な半ロボットの女性にそれを投影したデザインとなっている。
メタリックを取り入れた「超近代的日本」を魅せたコレクション。
2019 AUTUMN WINTER
ディオールの歴史や、メゾンのエンブレム、そして新たなプリズムから見たメゾンのコードを着想源にした、オータム ウィンターシリーズ。
パンテールプリントとして1947年の最初のコレクションで登場した動物のエスプリは、ムッシュ ディオールがとても好んでいた。
今回はそれらのアイディアを、これまでディオールが大切にしてきた「テーラリング」に融合させたシリーズ。
アートとアーティスティックな世界に魅了されていたクリスチャン・ディオールに共鳴し、キム・ジョーンズは、今コレクションでレイモンド・ペティボンとのコラボレーションを実現。 春夏のポップな印象とは違い、シックでモダンな風合いのコレクション。
メンズライン「ディオールオム」を終了させ、メンズとウィメンズを統合させたキムジョーンズの「ディオール」。彼はその先にいったい何をみているのか。今後ますます期待を膨らませずにはいられない。
モダンブルーでは、クリス・ヴァン・アッシュが手掛けた最後のシリーズの商品もまだまだ取り扱っておりますので、ゲットするなら今がチャンス。
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